近年、空き家問題が深刻になりつつあります。
総務省統計局のデータによると、全国の空き家は増え続けており、平成25年時点で空き家数は820万戸、空き家率は13.5%となっています。

空き家になる原因はさまざまですが、今回は、親が高齢者施設へ入所したことを機に、自宅が空き家となったケースにおける家族信託の活用法をご紹介します。
空き家となった実家を残しつつ、将来の売却に備えたい
高齢者施設への入所を検討している母親がいる相談者がやって来ました。



母親は、施設へ入所した後も、ひとまず自宅はそのままにしておいて、将来的に必要があれば、売却してもいいと言っています。


他に何かいい方法はないでしょうか。
もし、家族信託を利用しないと…

相談者のケースでは、自宅を売却しようとなった際に、母親が認知症になっていると、母親の意思確認ができないため、売却手続きを進めることができません。
このような場合、成年後見制度を利用するしか方法はありませんが、自宅の売却には母親に成年後見人をつけただけでは足りず、さらに家庭裁判所の許可も得なければなりません。
したがって、成年後見の申立から、成年後見人が選任され、さらに売却許可が下りるまでには、少なくとも4~5か月程度はかかるものと思われます。
このように、成年後見制度を利用した自宅の売却は相当の期間を必要とするので、売却のタイミングを逃してしまうおそれもあります。
また、売却の許可を得るには、自宅を売却しなければならない合理的な理由が必要となるので、そもそも裁判所の許可が下りない可能性があります。
母親の財産として実家のほかに十分な預金があり、それで生活費等がまかなえるような場合は、裁判所の許可が下りない可能性もあります。
以上から、母親が認知症で判断能力を失ってしまうと、自宅を売却したくても売却できない状況に陥ってしまうおそれがあります。
もちろん、成年後見制度を利用することで売却ができることもありますが、売却できたとしても成年後見は継続するので、引き続き、成年後見人による管理が行われることになります。
また、弁護士や司法書士などの専門職が成年後見人や成年後見監督人に選ばれていた場合、母親が亡くなるまで専門職への報酬が発生し続けることにもなります。
したがって、自宅を売却できたとしても、成年後見制度を使うことによる、さまざまな問題が生じる可能性もあります。
家族信託でこのように解決!
このような場合、家族信託を活用することにより、成年後見制度を利用しないで、自宅を売却することが可能となります。

信託の当事者は、母親と息子
母親が元気なうちに、自宅を息子に託しておきます。信託の当事者は、母親を委託者兼受益者、息子を受託者とします。
委託者と受益者が同一(母親)なので、信託をしても税務上の所有者に変更はありません。
したがって、贈与税や不動産取得税は発生しません。
信託をすることにより、外形上、自宅の名義は息子に変更されます。
ただし、当たり前のことですが、息子は自宅が自分の名義になったからといって、好き勝手にしていいわけではありません。
その名義は、あくまでも管理をするためだけの形式的なものであるため、母親のために自宅を管理し、有効に活用していきます。
言いかえると、自宅の経済的価値を母親に残したまま、管理をする権限だけを息子に移したということになります。
自宅の売却権限も与えておく
なお、信託契約では、息子に自宅の売却権限も与えておきます。
これにより、母親が認知症になった後でも、成年後見制度を使うことなく、息子だけで自宅を売却することができます。母親の意思確認も必要ありません。
息子は受託者というだけで、自宅を売却できるわけではありません。売却するには、あらかじめ信託契約の中で、売却権限を持たせておくことが必要となります。
なお、自宅の売却代金は、そのまま信託財産となります。つまり、信託していた財産が「不動産」から「お金」に形を変えたということです。
したがって、今度は「お金」を信託財産として管理し、必要に応じて、母親の施設費用などに使っていくことになります。
以上のように、家族信託をしておくことで、成年後見制度を使うよりも、スムーズに自宅の売却手続きを進めることができます。
最近、足腰が悪くなってきているため、そろそろ高齢者施設へ入所をしようかと考えています。